宗教のなかの女性史

宗教のなかの女性史

宗教のなかの女性史

フェミニズムと宗教の連帯の可能性を模索した興味深い論文集です。
基本的に日本の宗教に限定して論じられています。


神道、仏教、キリスト教、と様々な宗教が議論の俎上に載せられていますが、その中でもとりわけ田 光礼氏の『「天皇信仰」の現在とアジア』は本書発表10余年後の今をも読まれるべき内容を持っているといえるでしょう。
著者の個人史としても語られる在日コリアン女性の受苦の経験は、ぼんやりと惰眠を貪るような日々を送っているような私たちの想像を超えた位相にあります。
度重なる苦しみから生まれ、こころの奥底に澱のように沈殿していった「恨」は決して癒されえぬものなのでしょうか?


この論文を読んだときに、私はかつて見たある映画を思い出しました。
韓国のイム・グォンテク監督の映画『風の丘を越えて西便制』です。

風の丘を越えて [DVD]

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この映画は韓国の伝統的民間芸能であるパンソリをテーマに、私たちがいかに「恨」を克服できるかを問うた作品です。
この映画のなかで、パンソリを極めるには自分の内の「恨」と正面から向かい合わなければならない。
しかしそれだけではだめであり、自分の内の「恨」と相対しそれを超克したときにこそ歌の中に真の美が顕現するというセリフがあります。


受苦の当事者でない私にとって、その想いを推し量ることはできませんが、これこそはまさにテーラワーダ仏教の「慈悲」につながってくるもののように思われます。
いろいろな意味で考えさせられる論文です。