21世紀の現実―社会学の挑戦

21世紀の現実(リアリティ)―社会学の挑戦

21世紀の現実(リアリティ)―社会学の挑戦

様々なメディアで活発な言論活動を展開している、社会学者の宮台真司博士と、その門下生の論文集です。
収録されているどの論文もそれぞれ興味深いテーマを扱っていますが、とりわけ金田智之氏の「人を愛するとはどのようなことなのか? 「愛」の社会的機能」は刺激的な論考だと思いました。
本論文の中で金田氏は「同性愛という実践」を鏡として「異性愛という実践」の持つ不自然さ、奇妙さをつぶさに分析してみせます。
このような論述は多くの読者にとって、一見奇異なものに映るかもしれません。
まして、紋切り型のストーリーラインを持った純愛小説が大ベストセラーになったりする昨今です。
多くの人々にとって、「異性愛という実践」はあくまで自明のものであり、不変のものと感じられる可能性はあります。
しかし、実際はそうでしょうか?
私自身が実践しているテーラワーダ仏教では、人を「愛する」ことはそれほど重視していないように思います。
むしろそれよりは、他の存在を「慈しむ」という関係をこそ、奨励しています。
残念ながら、人類の歴史の中で、このような他の存在を慈しむような関係が、主流となったことはないようです。
それは、慈しみの感情は、人間がもともと持っている感情とはいえず、訓練しなければ育たないものであるからということもあるでしょう。
それでも私は、このような慈しみの実践の中に、金田氏の語る「『個人』を『個人』として尊重し、互いが互いを『個人』として気遣う関係性」の実現する社会への契機があるのではないかと思っています。
そのような意味でも「同性愛」をめぐる関係性の実践と、テーラワーダ仏教の実践との接続に、今後大いに期待しています。